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by Rie Takagi

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青春小説『想い出の行方』第1話

2018/07/14

私は副業の一つとして、小説をAmazonのKindleで販売しております。

『想い出の行方』という題名の小説です。

今回、少しでも興味がある人を増やしたいので、ブログに載せることにしました。

 

無料公開です。

 

 

 

青春小説『想い出の行方』  あらすじ

 

ドロケイの人数足りないんだ。入ってくれない?」
この一言から物語は始まった。

動物園飼育員である松葉翔の元に一人の女性カメラマンが現れる。
カメラマン朱音は高校時代に引っ越すまでの想い出を共にした幼馴染みだ。
彼女は十年前に埋めたタイムカプセルを開けようと提案する。
ドロケイの中に、アクロバティックスポーツのパルクールを取り入れて芸術へと昇華させた幼馴染み6人組。
25歳になった今、バラバラとなったメンバーを揃えるために動き出す。
そんな中、翔は朱音の秘密に気付くことに。

 

 

ご興味あれば↓から読んで下さい。

まず第1話です。

お願い致します!

 

 

青春小説『想い出の行方』第1話

 

 

「ドロケイの人数足りないんだ。入ってくれない?」

これが僕達の日々の始まりだった。

今も彼らとの何気ない日常を振り返り、支えられている気がする。
社会に出てからが本当の人生だというけど、しばしば思い出に帰る。

居場所とは。安らぎとは。そんなことを考える度に彼らの笑顔に行きつく。

この海岸を見渡しても、夕焼けに模(かたど)られた彼らのシルエットは、
あの頃のように簡単には見付けることができない。

時の流れは、僕の想いを汲むことなく、歩みを止めず流れていく。

桜が蕾を蓄え始め、春の色に染まりかけている日曜日。晴れた週末はこの動物園も大賑わいだ。
子ども連れの家族、柔らかな表情の若いカップル、動物を被写体とするカメラマン。

人々の視線はどれも優しい。笑顔に包まれた休日。

ゴリラが行うドラミングの仕草を真似する子ども、馬に話しかけるおばさん、
驚いた表情を浮かべながらクジャクを見つめる老夫妻などを見ていると嬉しくなる。

この動物園には五十八種の展示動物がいる。春の訪れと共に活動が活発になる動物も多い。

 動物と人間との心の共有を築き実感できる場所。そんな動物園に今後もしていきたい。

僕は午前中に、インドライオンやレッサーパンダの部屋掃除と、オランウータン、ホッキョクグマの餌やりを終えたところ。

そう、僕は、子どもの頃からの夢を叶えたのだ。

動物園の飼育員。

物心ついた頃から動物との時間が安らぎの時だった。動物達と多くの時間を共有した。

そんな僕にとって、まさしく天職みたいなものだ。

動物は裏切らないし、懐いてくれればこんな僕でさえ頼りにしてくれる。

少なくとも動物は毒舌ではない。

小学校低学年の時は、人間の友達よりも動物の友達の方が多かった気がする。

よく近所の猫(野良猫も飼い猫もいた)についていったり、スズメやハトに給食の残りのパンをあげたりしていたものだ。

夕方には広場に散歩で犬がたくさん集まるのを知っている。

犬の名前を覚えることも好きで、新しい犬と知り合うと家族に伝えたくて仕方なかった。

そんな少年も今やニ十五歳となり社会人として働いている。
成長したことは何だろう。寝癖をつけたまま生活を送るスタイルは少年の頃のままだ。
何度周りの人に注意されても直らない。基本時に身だしなみに無頓着である。
風貌も生活も地味ではあるが、今の自分を嫌いではない。自分の好きな仕事ができている。今はそれだけでいい。

ペンギンの餌やりの時間。この動物園でペンギンはアデリーペンギン、フンボルトペンギン、皇帝ペンギン、イワトビペンギン、合わせて三十七匹いるのだが、みんな食欲旺盛だ。今ではペンギンの腕章を見なくても、名前を区別できるようになった。

餌は鯵をあげる。ペンギンは魚を尻尾からは食べない。

ぜいごと呼ばれる棘状の鱗が喉に引っかかるからだ。

なので与える時は頭から与えるように気をつける。例え尻尾からあげても、ペンギンはちゃんと頭から食べるが。

トコトコ歩きながら数羽で餌の取り合いをする者達がいたり、水に浮かびながらねだり声を上げる者もいる。

陸上ではぶきっちょな歩き方でハラハラさせるが、水中では一流のスイマーだ。
俊敏に自由に泳ぎ回る。このギャップがたまらない。

今年産まれたフンボルトペンギンのトビッチョは元気いっぱい餌を追いかけ回している。

小さな身体に雛の柔らかい羽毛がまだ残っているので目立つ。

餌を与えながら、体調などを確かめるためにペンギン達を観察していると、お客様の方から大きな声が響いた。

「飼育員さーん!!ペンギンはいつになったら飛べるの?」

元気みなぎる女性の声だった。
「難しい質問ですね……」顔をそちらに向けて答えようとしたが、それ以上は言葉に詰まってしまった。

その美しい人には見覚えがあったからだ。

とびっきりの笑顔でこちらを見つめる女性は紛れもなく僕の特別な人だった。

 

両手に溢れる大きさの一眼レフを首にかけている。

セミロングの髪が風になびく。耳にはピアスが光り、少しながら化粧も施しているようだ。
スッと通った鼻。開かなければ控え目な口。存在感のある瞳。あの頃と同じ顔立ち。
でもやはり八年の歳月を漂わせる洗練された雰囲気を放っている。

彼女は「よ!」と手をかざす。

その白い歯を見ていると、何気ない風景が彩りを増した気がした。
時間にしては五秒ほどなのだろうが呆然と立ち尽くしてしまった。出会いと別れが走馬灯のように溢れ出す。
こいつはいつも突然だ。

「何飲む?」僕は自動販売機に向かい尋ねた。

「お!おごってくれるの?太っ腹。ほんじゃカプチーノ」
「あいよ」

自動販売機から取り出した一缶を手渡す。仕事が一段落ついたので彼女としばしの休憩。

ゴリラの前のベンチに腰をかける。ゴリラのドンは昼食後で眠いのか、大きな手で背中を掻きながらのんびり座っていた。目がトロけている。あくびを何度か繰り返し口をむにゃむにゃ動かす。ドンはいつだってこの調子だ。

「それよく似合うね」朱音(あかね)が缶コーヒーを一口飲んだ後、僕の深緑の作業着を指差して言った。白い歯を見せてニヤけている。
「どういう意味だ?」

「スーツより翔(しょう)らしいってことよ。よかったね。夢叶って」

ゆるやかな風が吹き、ストレートの髪がなびく。
ほのかにシャンプーが香る。彼女と話すのはかなり久しぶりなはずなのに、
話し出した瞬間、今まで会えずにいたその時間が塗り替えられたようだ。

昨日も話していたみたいな感覚。あの頃の記憶に瞬時にジャンプするようだ。

「そりゃどうも。で、朱音はカメラが仕事?」カメラに目をやって尋ねる。

「まあね」朱音は前方の檻の中のドンを見つめたまま頷いた。

「そっか。目指していたプロカメラマンになったんだね。おめっとさん。さすがだな」

「ブイ」朱音はにやりと笑い、Vサインを顔の横に作った。

「プロカメラマンていってもピンキリ。そんな稼げるもんじゃないのよ。でも楽しいのは間違いないね」

「楽しめる仕事ってのが一番だね」

「そだね」

「久々だなあ。そいや何しに来たんだ?おれが恋しくなって来ちゃったのか?」

「それはどうでしょ」懐かしい笑い方だ。
大人になっても以前と同じ笑顔をする。
二重の大きな目が笑う時は一気に細くなる。


そんな朱音の笑い方が好きだ。

僕がボーっと眺めていると、

「忘れちゃったのー?」と横目を寄越す。何の話だろう。

「掘り起こすぞー!」  ますます何の話だろう。

「へ?」ピンとこず、情けない声が漏れてしまった。

 

 

「あれから十年よ。……タイムカプセル」 そういうことか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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